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資料区分 セメント・コンクリート論文集
管理ID 76-076
VOL 76
発行年 2022
タイトル 石灰石微粉末を混合した中庸熱および低熱ポルトランドセメントの反応におよぼすトリイソプロパノールアミンの影響
英語タイトル INFLUENCE OF TRIISOPROPANOLAMINE ON THE HYDRATION REACTION OF MODERATE HEAT AND LOW HEAT PORTLAND CEMENTS MIXED WITH LIMESTONE POWDER
著者(1) 宇野 光稀/UNO Kouki*1
著者(2) 新 大軌/ATARASHI Daiki*2
黒川 大亮/KUROKAWA Daisuke*3
細川 佳史/HOSOKAWA Yoshifumi*3
著者所属 *1:島根大学 大学院自然科学研究科(〒690-8504 島根県松江市西川津町1060)/SHIMANE UNIVERSITY, Graduate School of Natural science(1060, Nishikawatu-cho Matsue-shi, Shimane 690-8504, Japan)
*2:島根大学 学術研究院環境システム科学系(〒690-8504 島根県松江市西川津町1060)/SHIMANE UNIVERSITY, Science of Environmental Systems, Graduate School of Natural Science and Technology(1060, Nishikawatu-cho Matsue-shi, Shimane 690-8504, Japan)
*3:太平洋セメント株式会社 中央研究所(〒285-8655 千葉県佐倉市大作2-4-2)/TAIHEIYO CEMENT CORPORATION, Central Research Laboratory, R&D Department I(2-4-2, Osaku, Sakura-shi, Chiba 285-8655, Japan
ページ 76-83
キーワード 中庸熱ポルトランドセメント,Moderate-heat Portland cement|低熱ポルトランドセメント,Low-heat Portland cement|フェライト,Ferrite|石灰石微粉末,Limestone powder|アミン系添加剤,Amine additive|混合材,Mineral admixtures|水和反応,Hydration reaction|カーボンニュートラル,Carbon neutral
要旨
本研究では、石灰石微粉末(LSP)を混合した中庸熱ポルトランドセメント(MC)および低熱ポルトランドセメント(LC)の強度発現性と水和反応に及ぼすトリイソプロパノールアミン(TIPA)の影響について検討した。MC、LCにLSPを混合することで材齢7日ではやや圧縮強さが低下し、材齢28日では大きく圧縮強さが低下した。一方MC、LCにLSPとTIPAを併用した場合、材齢7日では圧縮強さに変化はなかったが材齢28日では圧縮強さは改善しMC、LCのみの系以上の圧縮強さが示された。また、MC、LCにLSPとTIPAを併用することでMC、LCにLSPのみ混合した系と比べフェライトおよびCaCO3の反応が材齢初期から促進され、材齢28日ではモノカーボネートの生成量が増大することが示された。
In this study, the effect of triisopropanolamine (TIPA) on the strength development and hydration reaction of moderate-heat Portland cement (MC) or low-heat Portland cement (LC) with limestone powder (LSP) was investigated. Compressive strength of MC or LC slightly decreased at 7 days and significantly decreased at 28 days by addition of LSP. On the other hand, the compressive strength of MC or LC containing LSP increased by addition of TIPA at 28 days, however the compressive strength at 7days did not increase. There was a significant correlation between compressive strength and porosity of hardened cement paste with LSP regardless of the addition of TIPA. In addition, the reaction of alite (C3S) and belite (C2S) did not change by addition of TIPA. However, the reaction of ferrite (C4AF) and CaCO3 at early stage were significantly accelerated by adding of TIPA. And the formation of monocarbonate in MC-LSP or LC-LSP system was promoted by addition of TIPA.
はじめに
 2020年に日本政府は2050年にカーボンニュートラルを目指すことを宣言した。一方セメント産業では2020年度に約4000万tのCO2を排出しており、国内産業部門において第4位の排出源となっている。そのため環境負荷低減に向けたセメント産業のCO2排出削減・抑制は急務の課題である1)。この課題解消に向けた解決案の一つとして、クリンカー比率の低減が挙げられる。セメント製造工程で排出されるCO2の大半はクリンカーを製造する工程で発生しており、クリンカー比率を低減することはセメント産業由来のCO2排出量の削減に直結する。
 政府の2050年カーボンニュートラルの実現の宣言を受け、一般社団法人セメント協会でも普通ポルトランドセメント(NC)の少量混合成分の増量により2050年にはクリンカー/セメント比が0.8にまで低減することを想定する長期ビジョンを2022年に策定した1)。今後、セメント産業からのCO2排出量のさらなる削減を考えるとNCの少量混合成分の増量だけでなく、現行のJISで混合が認められていない2)中庸熱ポルトランドセメント(MC)と低熱ポルトランドセメント(LC)への混合も検討していく必要がある。そして少量混合成分として国内需要を100%自給できる資源である石灰石微粉末(LSP)を混合材として有効利用することも重要となると考えられる3)。
 これまでに、NCに少量成分を混合することで、モルタルの初期強度発現性に影響を及ぼすことが報告されており4)、これは少量混合成分により、セメント中のエーライト(C3S)、間隙相の水和反応が変化することが要因の一つであると考えられている5)。
 また、近年行われているNCへの少量成分の混合を10%程度まで増量する検討においても、上記の効果を踏まえた品質設計が提案されている6)。MC、LCにおいても、少量成分の混合が硬化体の初期強度発現性やセメントの水和反応に影響を及ぼすことが考えられるが、詳細に検討している例は少ない7)。一方で市川らはトリイソプロパノールアミン(TIPA)などのアミン系添加剤が間隙相の反応を大きく促進することを報告しており8)間隙相の反応を大きく促進することで圧縮強さ増進が期待される。そこでTIPAがNCと間隙相量が異なるMC、LCの水和反応に及ぼす影響についても明確にすることが重要となると考えられる。
 本研究ではMC、LCに少量成分を10%まで混合したモルタルおよびペーストを作製し、MC、LCの初期強度発現性および水和反応に及ぼす少量混合成分およびTIPAの影響を検討した。
まとめ
 本研究では、少量混合成分として石灰石微粉末(LSP)を混合した中庸熱ポルトランドセメント(MC)、低熱ポルトランドセメント(LC)の強度発現性と水和反応に及ぼすトリイソプロパノールアミン(TIPA)の影響について検討した。得られた結果は以下の通りである。
1)MC、LCにLSPを混合することでMC、LCのみの系と比較して材齢7日の圧縮強さはやや低下し、材齢28日では圧縮強さが著しく低下した。一方MC、LCにLSPを混合した系にTIPAを添加することで材齢7日では圧縮強さの低下は変化しないが材齢28日においてはMC、LCのみの系と同等以上の圧縮強さを示し、MC、LCにLSPを混合することによる圧縮強さ低下は改善された。
2)MC、LCにLSPを混合した場合、MC、LCにLSPを混合しTIPAを添加した場合いずれにおいても圧縮強さと空隙率に強い相関があることが確認された。またMC、LCにLSPを混合した系にTIPAを添加することで材齢7日から材齢28日にかけて著しく空隙が埋まるとともに圧縮強さが急激に増進することが明らかとなった。
3)MC、LCにLSPを混合することでMC、LCのみの系と比較して材齢7日の水和熱はやや低くなり材齢28日の水和熱は大幅に低減した。一方、MC、LCにLSPを混合した系にTIPAを添加することで材齢7日における水和熱は同等以上となった。また、材齢28日の水和熱はMC、LCにLSPを混合した系にTIPAを添加することで水和熱が著しく高くなった。これらの水和熱の結果は圧縮強さの結果と同様の傾向を示すことが明らかとなった。
4)MC、LCにLSPを混合した系にTIPAを添加することによるビーライト(C2S)の反応促進および反応遅延は確認されなかった。
5)材齢7日においてMC、LCにLSPを混合しTIPAを添加することでMC、LCにLSPのみ混合した場合と比較してC4AFの反応率が大きくなるが、水和生成物量が増えていないため材齢7日で圧縮強さは増進しなかったと考えられる。
6)材齢28日においてMC、LCにLSPを混合しTIPAを添加することでMC、LCにLSPのみ混合した場合と比較して、水和生成物量が増えたため材齢28日の圧縮強さは増進したと考えられる。
7)MC、LCにLSPを混合した系にTIPAを添加することでMC、LCにLSPのみ混合した系と比較してモノカーボネート(Mc)生成量が増大した。その要因としてはCaCO3の反応が材齢初期から大きく促進したことが考えられる。
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